千葉大学国際高等研究基幹/環境リモートセンシング研究センター 山本 雄平 特任助教、市井 和仁 教授らの国際共同研究グループは、気象衛星ひまわり8号から観測された地表面温度の日変化情報を活用することで(図1)、従来手法よりも詳細に植生の乾燥状態を検出できることを明らかにしました。
本手法により、異常気象によって植物が受ける高温/乾燥ストレスの検出や、農業や林業でのより詳細なリスク管理、森林火災の早期発見が可能となります。また、ひまわり8号と同等の観測スペックをもつ他国の気象衛星にも展開することで、急速な環境変動をグローバルで把握できるようになり、気候変動対策や環境保全への貢献も期待されます。本成果は2023年4月10日に国際学術誌Remote Sensing of Environmentにオンライン掲載されました。
■ 研究背景
地球温暖化の進行に伴い、熱波や干ばつなどの異常気象の激甚化・頻発化が懸念されています。日本でも2018年や2022年夏の記録的な猛暑は記憶に新しいところですが、これと同程度の猛暑が今後頻繁化していくことが予測されています。異常気象による植生環境への被害は、農作物の品質・収量低下やCO2吸収量の低下など、社会的にも気候的にも非常に深刻な問題です。
植生環境のモニタリングには、一般的に極軌道衛星で観測された分光植生指標が利用されてきました。分光植生指標は、端的に言えば肉眼で捉えられる色付きの度合いや植物の量を把握できます。ただし、植物が変色や枯死に至る前段階の、高温や乾燥などの環境ストレスを受けた状態を検出することは困難です。また、極軌道衛星は南極と北極を通過するように地球を周回します。そのため、同一地域の分光植生指標を観測できる実質の頻度は数日に一回であり、急速な環境変化を捉えられないという課題もあります。
■ 研究手法
気象衛星「ひまわり8号」は高頻度観測を得意とする衛星であり、7号からの観測機能の向上によって、晴天日の地表面温度を10分毎に観測できるようになりました。一般的に地表面は乾燥すると温度変化しやすくなり、日変化のピークは早まります(図1右上)。また、植物は乾燥によるストレスを受けると気孔を閉じて蒸散速度を下げるため、更に温度が上昇しやすくなります。これらの関係に着目して地表面温度の日変化情報を活用できれば、分光植生指標とは異なる新たな視点での植生モニタリングが期待できます。
本研究では、日変化情報を日最高温度・日較差・ピーク時刻・冷却時定数などで表しました。これらの情報は、ひまわり8号で観測された晴天日の地表面温度をもとに、DTC(日周温度サイクル)モデルという半経験モデルで推定されます(図1左上)。衛星から観測された地表面温度には、雲の混入によるノイズや一時的なデータ欠損が含まれることがよくありますが、DTCモデルに当てはめることでこれらを補間できます。
2018年の夏に日本周辺で発生した猛暑を対象に、どの日変化情報が乾燥状態の検出に有用であるかを、土壌水分量や潜熱量、光合成量、分光植生指標との関係に着目して調べました。
■ 主な研究成果
○ 日最高温度と日最低温度、日較差は安定的に推定できる一方で、ピーク時刻や冷却時定数は地形斜面の向きや観測角度による影響を受けやすく、複雑地形の多い日本での適用は困難であることが分かりました。
○ 猛暑による日較差の増大は土壌水分量や潜熱量の低下に対応し(図2上)、分光植生指数が低下した地域では日最高温度の上昇がみられました(図2下)。日較差と日最高温度を活用することで、分光植生指標で判別が困難なレベルの乾燥シグナル(大規模な枯渇や変色には至っていないけれど、乾燥化が起きている状態)を検出できることが示されました。
○ 本手法を気候条件の異なる地域に拡張したところ、特に半乾燥地域において、日最高温度と日較差の増大に応じて光合成量が低下する傾向もみられました。植物は日中の高温・乾燥環境において光合成活動を休止します(昼寝現象)。この現象を衛星から広範囲に検出することは困難でしたが、本成果によって、新たに検出できる可能性が示されました。
■ 論文情報
タイトル:Detection of vegetation drying signals using diurnal variation of land surface temperature: Application to the 2018 East Asia heatwave
掲載誌:Remote Sensing of Environment
著者名:Yuhei Yamamoto, Kazuhito Ichii, Youngryel Ryu, Minseok Kang, Shohei Murayama, Su-Jin Kim, Jamie R. Cleverly
DOI:https://doi.org/10.1016/j.rse.2023.113572
■ 謝辞
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 [20K19952], [19H03301], [22H05004]と研究拠点形成事業(a. 先端拠点形成型) [JPJSCCA20220008]、地球気候系の診断に関わるバーチャルラボラトリーの形成(VL)により実施されました。