-利用者では「外出」約1.9倍、さらには「こころ」、「人とのつながり」まで2.1~5.2倍に-
千葉大学予防医学センターの近藤克則教授、花里真道准教授を中心とした研究チームは、高齢者の移動支援の1つであるグリーンスローモビリティ(以下、グリスロ:時速20km未満で公道を走ることができる電動カートを利用した移動サービス)導入前後の外出・こころ・人とのつながりの主観的変化の関連を65歳以上の利用者・非利用者599人で検証しました。その結果、電動カート(グリスロ)利用者では、非利用者と比較し、以下のような導入前後の主観的な変化を感じていることがわかりました。
● 外出機会、行動範囲の増加:1.7~1.9倍
● 家族・家族以外と話す機会、助け合い、地域活動参加:2.8~5.2倍
● 楽しみ、生きがい、笑い、明るい気持ちの増加:2.1~2.6倍
電動カートは外出、人とのつながり、こころに良い変化をもたらす”動く交流の場”のような機能をもち、移動支援に留まらない地域の課題を解決する可能性が示されました。今後、本成果を活用して、暮らしているだけで健康で活動的になるコミュニティ(Well Active Community)づくりの推進が期待されます。
本成果は 「老年社会科学」に2023年10月24日に掲載されました。
本研究では2021年7月より共同研究契約を締結しているヤマハ発動機株式会社が2021年10月~2023年1月に千葉県松戸市、大阪府河内長野市で実施した電動カート導入事業のデータを分析しました。
■研究の背景
高齢者の移動手段の確保は高齢化社会における重要な課題です。電動カート(グリスロ)の導入は地域の移動手段の課題を解決し、高齢者の外出機会を維持・増加させ、移動に留まらない人とのつながりやこころによい変化をもたらす波及効果も期待されます。しかし、これまで電動カート導入前後のデータを用い、利用者・非利用者を比較して外出・人とのつながり・こころとの関連を検証した報告はありませんでした。そこで、電動カート導入後の電動カート利用と外出・こころ・人とのつながりの主観的変化の関連を検証しました。
■対象と方法
2021年度にヤマハ発動機株式会社が2市3地域(大阪府河内長野市南花台地区、千葉県松戸市河原塚地区・小金原地区)で実施した約8週間の電動カート導入事業前後の自記式質問紙調査を用いました。対象は、導入地域に住み、導入前後の自記式調査に回答した電動カート利用・非利用者からなる65歳以上の高齢者599人でした。電動カート導入前の性別、年齢、教育歴、独居、主観的健康感、主観的経済困窮感、就労、外出頻度の影響を統学的に考慮した分析を実施し、電動カート利用者は非利用者と比較して、外出(外出、行動範囲、歩く)・人とのつながり(家族と話す、家族以外の人と話す、助け合い、地域活動参加)・こころ(楽しみ・生きがい・笑い)の主観的変化を感じているかを調べました。
■結果
導入期間中の電動カート利用者は149人(24.9%)でした。電動カート利用者は、非利用者と比較し、以下のような導入前後の主観的な良い変化を感じていることがわかりました。
■結論・今後の展望
電動カート利用者は、非利用者と比較して、外出、こころ、人とのつながりにおいて約1.7-5.2倍の良い変化を感じていることがわかりました。このことから、電動カートは外出、こころ、人とのつながりに良い変化をもたらす“動く交流の場“のような機能をもち、移動支援に留まらない地域の課題を解決する可能性が示されました。今後、電動カート運行の継続、対象者の長期追跡により、電動カート利用による要介護リスク、社会保障費用抑制についての検証も必要となると考えられます。
■研究プロジェクトについて
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(OPERA: JPMJOP1831)の支援を受けて行われました。
■発表論文
田村元樹、井手一茂、花里真道、中込敦士、竹内寛貴 、塩谷竜之介、阿部紀之、王鶴群、近藤克則. 地域在住高齢者におけるグリーンスローモビリティ導入による外出、社会的行動、ポジティブ感情を感じる機会の主観的変化: 前後データを用いた研究. 老年社会科学 45(3) 2023, 225- 238.