千葉大学大学院園芸学研究科 博士後期課程2年生の浅野風斗、同園芸学研究院の児玉浩明教授、宮本浩邦千葉大学客員教授らの研究グループは、カブトムシ幼虫に小魚などを発酵させた堆肥を与えることにより、メス幼虫のみが特異的(性特異的)に肥大化することを発見しました。今後需要拡大が予測される養殖魚や家畜向けの昆虫飼料の生産力増大に期待できる研究成果です。
本研究成果はJ Appl Microbiolで2022年12月15日に公開されました。本研究で明らかになった成長促進作用の効果については特許出願(特願2021-092786)を行っています。
■ 研究の背景
研究グループは、エビや小魚を特殊な発酵段階(70℃以上)を経ることによって得られる好熱性細菌を多く含有する堆肥(以下、発酵物:図1)が、動植物並びに環境保全に与える影響について調べています。カブトムシ幼虫は植物由来の腐植性物質(腐葉土など)を食べることで成長するため、環境保全に貢献することが知られています。一方、その生育を促すために腸内微生物が重要と考えられていましたが、どのような微生物が働くのかはわかっていませんでした。
近年、地球温暖化による異常気象や人口増加による食料問題への対策の一つとして、栄養価に優れ、タンパク質が豊富な昆虫飼料の需要が見直されつつあります。一定のタンパク質量を生産するのに必要な餌の量が、他の家畜と比較して昆虫は少ないため、昆虫を用いたタンパク質生産は環境への負荷が低いと考えられています。同時に日本ではカブトムシを愛玩動物として飼育する文化があるため、大型のカブトムシは付加価値が高い昆虫です。そこで本研究ではカブトムシに発酵物を給餌し、それに伴うカブトムシ-微生物間の相互作用について調査しました。
■ 研究結果
市販の餌のみを与えたカブトムシ幼虫と市販餌+発酵物(重量比1%)を与えたカブトムシ幼虫の生育を42日間に渡り比較したところ、メス幼虫では市販餌のみを与えたグループで約1.3倍に肥大したのに対し、市販餌+発酵物を与えたグループでは約1.6倍と顕著な肥大化が観察されました(図2)。なおオス幼虫ではそのような肥大化促進効果は観察されませんでした。用いた発酵物の添加量は少なく、発酵物自体の窒素含有量も低いことから、発酵物による成長促進効果は、発酵物に含まれる微生物の働きによると推定されています。
また、糞の中にある微生物叢(微生物の集合)を解析したところ、オス幼虫と比較し、発酵物を与えたメス幼虫において、性特異的に特定の腸内細菌が増加していることが確認されました。これにより、甲虫類でも人と同じく腸内細菌が成長や健康に対して大きな影響を及ぼしていることが明らかになりました。
■ 今後の展望
人や家畜で使用されるプロバイオティクス(摂取することにより身体に良い影響をもたらす微生物)による性特異的な宿主の成長促進効果はこれまで報告がほとんどありませんでした。本研究結果は腸内微生物と性ホルモンの相互作用といった新たな研究分野の発展にもつながる可能性があります。また、養殖や畜産で使用される昆虫飼料の生産向上にも期待できます(図3)。
今後は、なぜメスだけが大きくなるのか、そのメカニズムを解明するため、カブトムシ幼虫の遺伝子発現の変化や、特異的に増加した腸内細菌を取り出して、その機能性を調べる予定です。
■ 論文情報
論文タイトル: Amendment of a thermophile-fermented compost to humus improves the growth of female larvae of the Hercules beetle Dynastes hercules (Coleoptera: Scarabaeidae)
著者名:Asano F,Tsuboi A,Moriya S,Kato T,Tsuji N,Nakaguma T,Ohno H,Miyamoto H,Kodama H
掲載誌: Journal of Applied Microbiology
DOI: https://doi.org/10.1093/jambio/lxac006
掲載URL: https://academic.oup.com/jambio/advance-article/doi/10.1093/jambio/lxac006/6908770?login=true