氷河・積雪の融解を抑制!?〜雪氷藻類に寄生するツボカビの実態を解明〜

2023.07.05

目次

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■本研究のポイント

  • 高山の雪を緑色に染める雪氷藻類に寄生するツボカビの系統関係を世界で初めて解明
  • 雪氷藻類の繁殖は雪や氷河の表面を色づかせ融雪を加速するが、ツボカビはその雪氷藻類を殺すことで、氷河・積雪の融解、ひいては温暖化の加速を抑制している可能性が高い

■研究の概要

「高山や氷河に出現するツボカビは雪氷藻類に寄生するツボカビである」ということを横浜国立大学大学院環境情報研究院の鏡味麻衣子教授ら及び千葉大学大学院理学研究院の竹内望教授の研究チームが明らかにしました。ツボカビは、カエルやプランクトンなど様々な生物に寄生する菌類として知られています。氷河や高山積雪のような寒冷環境では、その存在は確認されていましたが、何をしているのか明らかになっていませんでした。本研究では、ツボカビが雪氷藻類に寄生している様子を捉え、その1胞子からDNAを抽出することに世界で初めて成功し、系統関係を明らかにすることができました。さらに、これらツボカビは、世界中の高山に存在しうること、雪氷藻類に寄生することに特化したグループである可能性を示唆しました。近年、氷河や高山では、雪氷性の藻類の繁殖によって表面が色づき、融解が加速している事実が明らかになっています。その藻類にツボカビが寄生していることは、これらの藻類とツボカビの宿主―寄生者関係によって氷河や積雪の融解が抑制される可能性を示しています。

本研究成果は、2023年6月20日(ロンドン時間)に、Frontiers in Microbiologyよりオンライン公開されました。

■研究の内容

ツボカビは、水中を泳ぐことのできる菌類です。カエルに寄生するツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis)はカエルの激減、絶滅を招いていることで注目され、「ツボカビ=怖い病原菌」という印象が持たれています。しかし、氷河、積雪など水域生態系の観点からすると、ツボカビは必ずしも悪者ではなく、生態的に与えられた役割があるのです。

 近年、環境DNA解析により、ツボカビの中に寒冷環境下でも繁殖する種が存在することが明らかになってきました。北極圏の海洋や、高山の積雪下または氷河周辺の土壌、さらに積雪や氷河そのものの上にも存在することが報告されています。しかし、それらが何らかの生物に寄生する種類なのか、あるいは単に有機物を分解する腐生性なのか、わかっていませんでした。本研究により初めて、寒冷環境で検出されるツボカビは、積雪や氷河上で繁殖する藻類(雪氷藻類)に寄生する種類であることが判明しました。

近年、氷河の後退や積雪の融解が進んでいます。その原因は地球温暖化等の気候変動に加え、氷河上で繁殖する藻類が表面を着色し、日射の吸収を増やすことで融解を促進する効果も大きいことがわかってきました。この藻類に感染するツボカビは、藻類を死に追いやることで、これら融解促進を軽減する力を持っていることになります。この論文の知見は、雪氷圏の将来を左右しうる微生物の相互作用を新たに見出すとともに、21世紀中に消滅すると予測される氷河生態系や積雪生態系を理解する一助になると考えられます。

なお、筆頭著者である中西博亮(現在、横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程前期2年)は卒業研究で本研究に取り組み、日本陸水学会(2022年9月)において口頭発表した「積雪生態系における雪氷藻類に寄生する新規ツボカビの発見」で最優秀口頭発表を受賞しました。学部の卒業研究での最優秀受賞は珍しく、研究内容の新規性および研究への熱意のこもったプレゼンテーションが評価された結果です。

鏡味教授は、本研究成果を含めツボカビの研究全般が評価され、生態学琵琶湖賞を受賞しました。2023年7月8日に滋賀県知事からの表彰と受賞記念講演「琵琶湖から広がる泳ぐカビの世界:ツボカビの謎に迫る」を予定しています。

■論文情報

論文タイトル:Novel parasitic chytrids infecting snow algae in an alpine snow ecosystem in Japan.

著者:Hiroaki Nakanishi, Kensuke Seto, Nozomu Takeuchi, Maiko Kagami

雑誌名Frontiers in Microbiology

DOIhttps://doi.org/10.3389/fmicb.2023.1201230

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