※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです
留学が新たな研究テーマに取り組むきっかけに
私が取り組んでいる研究は、教育人類学や言語人類学の視点からアプローチする異文化間教育学です。外国にルーツがある、言語的文化的に多様な背景を持つ子どもたちの人種やエスニシティに関わるアイデンティティ、居場所などが、どのように形成されていくのかが主要なテーマです。米国留学中の2004年からこれまで、ロサンゼルスに長期滞在する日本人の高校生(元高校生も含む)や日系米国人を対象にした調査に取り組んできました。
学部生時代は高校の英語教員になりたいと言語学を学んでいました。しかし、そのとき学んでいた理論がどこかしっくりせず、異なる角度から言語学を学びたいと米国に留学しました。
留学先での経験は、自分に極めて大きな転機をもたらしました。ひとつは、米国の学際的な言語学の潮流に触れたこと、またひとつは、現地における教育学の主題が言語的文化的マイノリティの子どもたちの教育であることに刺激を受けたこと、またひとつは、海外では自分が周縁化され、差別される立場であると知ったこと。そうしたいくつかの経験から、言語自体というより、言語や文化を通して教育や社会を考えたいと考えるようになりました。
長年の研究に注目が集まる
私が研究者としてスタートを切ったころ、国内の外国につがなる生徒の教育に対する社会的な関心はあまり高くありませんでした。それから20年が過ぎ、日本語教育を受ける機会を確保することを目指す「日本語教育推進法」が施行されたり、文部科学省でも外国につながる児童生徒教育に関してさまざまな調査や情報提供がなされたりと、日本社会は変わりつつあります。
私が学んだ先生方が努力を重ねて外国につながる生徒らの教育研究を発展させてきたことが、現在の状況につながっていると確信しています。最近は私の研究にも関心を持っていただき、外国人生徒教育に関係あるさまざまな教育組織・機関からお声がけいただくことが増えました。私の研究は即効性のあるものではありませんが、そうした研究をベースにした教育や施策が実現しつつあるのは感慨深いことです。長年続けてきた研究が教育に役立てられるとしたら、とてもうれしく思います。
子どもたち自身による課題解決を促していく
外国につながる子どもたちの教育に関わる課題解決は容易ではありません。政策面からのアプローチとして、「教員や担当者の数を増やして対処しよう」というように、量的な側面から課題を解決しようとすることがよくありますが、実際にはそれだけでは解決できません。それよりも重要なのは、質的な側面をどう考えるかです。
私は、子どもたち自身が自らの置かれた立場を批判的に捉え直し、ともに社会を編み直していくための支援や仕組み、手法を検討できるようにすることが必要だと考えています。そこで、そうした子どもたちを中心とする施策や制度の実現を目指して、多分野の研究者との国際協働 研究に取り組んでいます。また、千葉県においても、言語的文化的に多様な子どもたちの教育と就労をテーマにした研究に参加しています。今後も引き続き、学術的議論に留まらない具体的な働きかけをしていきたいと思っています。