※記事に記載された所属、職名、学年、企業情報などは取材時のものです
日米共同の大型研究プロジェクトに参加
大学卒業後、民間の研究所に研究補助職として就職しました。当初の仕事は、同研究所が企業から受け入れていた研修生の景気予測の手伝いと雑務でしたが、繁忙期以外は研修生たちと一緒に著名な大学教授らの出張講義を受けることができ、そのときの学びが経済学に関心を抱くきっかけになりました。
入所5年目には研究職に異動し、経済の研究をスタートさせることができました。職場環境や上司に恵まれていたから実現したことだと思います。
同研究所時代に参加した研究に、「高齢化の日米比較」をテーマとする日米共同の大型研究プロジェクトがあります。のちにノーベル経済学賞を受賞したジェイムズ・ヘックマン教授など著名な経済学者が多数参加していました。今もこのプロジェクトはメンバーを交代して続いており、私は途中外れた時期を含めつつ現在にいたるまで約30年間にわたり、会議に参加しています。
このプロジェクトに参加したことは、研究者としての私の大きな経験でした。初めて海外学会に参加したのも、このプロジェクトがきっかけです。同時に、国際会議をどのように運営するのかなど、アドミニストレーションの面での勉強にもなりました。
最先端の研究報告に刺激を受ける
研究者になって11年目に、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)に転職しました。
研究者ですが、立場は厚生労働技官です。民間と国家公務員の違いを感じただけでなく、国の政策立案に近いところで研究に取り組む面白さもありました。特に、国家公務員という立場上、公的統計の個票(マイクロデータ)を用いた分析をしやすい環境は、得難いものでした。
当時の欧米では公的統計や業務統計のマイクロデータを学術研究に用いることが既に当たり前となっていましたが、統計法改正前の日本では、難しかったのです。この社人研時代にマイクロデータを用いて人々の行動を経済学的に分析する実証研究の魅力を知り、本格的に取り組むようになりました。また、研究プロポーザルを書いて外部資金を獲得し、海外学会に参加する、ということも積極的にするようになりました。
私にとって、海外学会はモチベーションアップの場所でもあります。特に、全米経済研究所(NBER)が毎夏開催するSummer Instituteという学会には有力な経済学者が集結するため、機会があれば極力参加するようにしていました。ここ2年はコロナ禍のためオンライン開催となっていますが、真夜中とはいえ自宅から最先端の研究報告が聴けるのは貴重でした。
学際的な学会に参加するのも面白い経験です。現在は、働く時間帯に関する研究をしているので、それに関連した国際学会にも参加しています。経済学者だけでなく、社会学者による報告も多く、視点も異なるので、新たな研究テーマの発想につながることもあります。
国際交流が自分の研究を高める
海外学会以外でも、共同研究などを通じた各国の研究者たちとの交流から、私はいつも刺激を受けています。同じ領域の問題に取り組んでいても、国によって政策も経済環境も異なります。比較研究を行いながら、意見交換をするうちに良い信頼関係が築かれ、互いに招聘し合ったり、共同して書籍を出版したりするなどの成果につながっていくのです。こういう場合、やはり対面での交流は重要です。ホストとして研究者を招聘する際には、誠心誠意の配慮を心がけています。